自信作のひとつ『サイレーン』を語り尽くす!! 山崎紗也夏特別インタビュー

本日10月20日よる9時からスタートするドラマ「サイレーン 刑事×彼女×完全悪女」(フジテレビ系)。その原作漫画の作者である山崎紗也夏先生に、『サイレーン』誕生の舞台裏をうかがった。

美人を描きたい!

──『サイレーン』はとにかく美女を描きたいと思ったことからはじまったそうですね。美女が好きなのですか?

山崎紗也夏(以下山崎):大好きですね! 私の妹がすごく美人なのですが、昔描いていた漫画に出てくるつり目の美女は、全部妹の顔だったりします。シスコンなんです(笑)。

──山崎先生の描くカワイイ女性たちがシスコンの産物とは(笑)。

山崎:あとサラサラの長い髪の人も好き。一番遠い記憶だとW浅野の浅野温子さんのファンでした。サラサラのワンレンの流れるような髪にあこがれましたね。同じ長い髪でも、ふわふわしていた浅野ゆう子さんは全然ピンときませんでした(笑)。

──では橘カラには山崎先生の趣味がつまっているのですね。

山崎:そう。「ついに本当に一番描きたい美女を描いてやるぞ」と!

──究極の美女・カラを描く上で、描くのが難しかったことはありますか?

山崎:難しさよりも描く喜びが勝っていましたね。実は私、すごく変なクセがあって。「自分が描きたいものを描いちゃいけない」という謎のストッパーをかけちゃうんです。それを外したのが『サイレーン』のカラ。見た目、服装、仕草など全力で自分がイメージする最高の美女を描こうと思ってはじめたのですごく楽しかったです。大ゴマで髪の毛をガシガシ描いている時はすごくストレス発散にもなりましたし。

──キャラクターをつくる時に身近な人の見た目や性格をモデルにすることがあるとうかがいました。『サイレーン』のメインキャラであるカラ、里見、猪熊(イノ)はどのようにして生まれたのでしょう?

山崎:カラのビジュアルは眼力がある数名の女優さんを参考にしました。

──カラは眉毛が前髪に隠れてほとんど描かれていないのが印象的でしたよね。口元で笑っていても本当に笑っているのかわからない。表情が見えなくて怖かったです。

山崎:そう! 眉毛って大事なんですよ。眉を隠しているカラの表情を、目で描くというのは挑戦でした。プールに入っているシーンで前髪を上げていますが、眉毛は薄くしか描いていません。あの不気味さは描いていて快心のできでした。

──逆にイノは前髪が短くて眉毛を出していて、表情豊かなのがすごく対照的ですよね。

山崎:あっ本当だ。意識してなかった(笑)。里見とイノの2人も特定のモデルはいません。でも「カラという殺人犯にたちむかえるような2人」ということは決まっていました。実は最初、里見は元東京都知事の猪瀬直樹さんみたいなキャラになるはずだったんです。

──えっ!!

山崎:でも編集長にとめられて。

担当編集(以下担当):そりゃ反対しますって。

山崎:読者は漫画で夢をみたいんだからと言われ、泣く泣くあきらめました。ずんぐりむっくりでドスドスドスって走る刑事に、不釣り合いなほどかわいい彼女がいるっていいと思ったんだけど…。紆余曲折を経て里見はイケメンになりました。キャラたちの性格は、先にできたイノがとにかくいつでも絶対元気というキャラだったので、ちょっとネガティブで弱い面がある方がいいかなと漫画家の勘がはたらきました。これとこれを一緒にいれたらおいしいカレーができるぞー!みたいな。

担当:まずクライムミステリーという味付けがあって、カラを美味しくするために良い素材って何だろうって考えた時に、前向きなやつとちょっとネガティブなコンビがいくのが良いですよね。

山崎:そうです。ちなみに打ち合わせで私が意味不明ことを言った時も、担当さんがうまくまとめてくれています(笑)。

実は刑事ものは苦手だった

──『サイレーン』を描く前は刑事ものが苦手だったとのことですが、好きではないジャンルを描くのは難しくなかったですか?

山崎:すっごく難しかったです。でも担当さんに「警察どう?」って言われた時は、チャレンジ精神に火がついちゃったんですよね。「やってやるぜー! ハードル越えてやろう!」って。本当にドMです。担当さんが警察のことに詳しかったので大分助かりました。

──里見とイノの所属を警視庁機動捜査隊(通称キソウ)にしたのはなぜでしょう?

山崎:誰も描いてないから。新しいことしたいですよね。

──ここでもチャレンジ精神が(笑)。いざ描くとなってみて、特に難しかったところは何ですか?

山崎:写真資料が少なかったことですね。警視庁に取材に行ったのに写真を撮らせてもらえなかったりして。これはきつかった…。よく「ドラマとか見ればわかるんじゃないの」と言われるのですが、映っていないところはどうなっているんだろうとか、角度とか色々考えているんですよ。背景をお願いしているアシスタントさんも資料はあればあるほどいいんです。あと、個人的にはイメージがふくらませやすいので写真はたくさん欲しい。たとえば女の子の部屋の写真が50枚くらい揃っていたら、それだけで一話描けます。

──写真はご自身で撮るのですか?

山崎:バシバシ撮ります。プライベートでも電車を撮りに行ったりしますね。『サイレーン』を描いている時、どうしても一番新しい警察の制服がわからなくて、交番の前を何回も往復して盗み見るだけにあきたらず、遠くから望遠で盗み撮りしたりしました。最悪です。本当捕まるかも。

──(笑)。ちなみに、なぜ刑事ものが苦手だったのでしょう。

山崎:専門用語など、ある程度の知識がないといけないからです。たとえば小説なら説明があったり、字面で何となくわかることも、映像の場合だと耳馴染みがないとあっという間に置いてかれてしまうんです。でも『サイレーン』を描いて知識が増えたので、今は見ます。「その言葉覚えたから知ってるぜ…」とニヤニヤしたり、犯人を予想しながら。結構当たるんですよ、私(笑)。

カラ役・菜々緒さんの美しさにノックアウト

──先日ドラマのロケ現場に行かれたとか。

山崎:はい。第1話の撮影を見学させてもらいました。和気あいあいとしていてとても雰囲気が良かったですね。休憩の間、里見役の松坂桃李さんとイノ役の木村文乃さんがずっとしゃべっていたので聞き耳を立てていました。

──加わらなかったのですか?

山崎:いや、そんな…! 私ダメなんです。美男美女を前にするとかたまってしまうんですよ。盗み見した感じでは、木村さんは結構おしゃべりですごくイノっぽかったです。寡黙な方かと思っていたので正直意外でしたね。松坂さんにお会いしたのは2回目でしたが、シュッとしていて素敵でした。すごく背が高いけれど顔が小さいのでまったく圧迫感がないんですよ。ブログに載せたツーショット写真とか、悲しくなります(笑)。

──今回松坂さんはパルクールを取り入れたアクションに挑戦されていますよね。

山崎:そうなんです。お会いした時も、筋肉痛だって言っていました。

担当:現場では菜々緒さんにもご挨拶しましたよね。山崎さんのリアクションがすごくって(笑)。

山崎:モンスターがきたと思いました。エイリアン!? 宇宙人!?…と。あ、褒め言葉です! それくらいこの世のものとは思えない美しさだったんですよ。

担当:唯一口にしたのが「お美しい…」ですもんね(笑)。

山崎:それだけは伝えなければと思ったんです(笑)。そしたら菜々緒さん、ニコッて。

担当:そのあと、山崎さんは何時間もモニターを見てました。

山崎:長い手足にスラッとした身体。その上にむきたまごのように美しい顔がのっていて…。まったく見飽きませんでした。

──ドラマ化にあたり、キャストのイメージなどリクエストはしたことはありますか?

山崎:まったくないですね。もうキャストについては、最初から皆さん役柄にあわせて作り込んでいらして、原作者としてはぐうの音も出なかったです。本当にぴったりです。ドラマ化にあたっても、こちらからお願いしたのはタイトルを変えないで欲しいということと、里見とイノが協力してカラをつかまえるという基本的なストーリーを生かしてほしいという2点だけなんです。それ以外は制作サイドでいい解釈をしてもらって、作品をいい方向にアレンジしてもらえればと思っています。

──ドラマオリジナルキャラ、 “チビデカ”速水は何かアイディアを出したりしましたか?

山崎:これもお任せです。自由にやってもらうことに抵抗がないので、いち視聴者としてテレビの前で楽しみにしたいと思います。

──過去にも『はるか17』や『シマシマ』などドラマ化されていますが、テレビの前で第一話を見る時はどんな気持ちなんですか?

山崎:恥ずかしい。うれしいけど恥ずかしいです。あのキャラがセリフしゃべってるよ〜って。あとドラマは世界観をつくるのが本当にうまいなと思います。『はるか17』の時、はるかの事務所の入口に居酒屋にあるたぬきの置物があったんですけど、これは思いつかなかったと感心しました。『サイレーン』の撮影現場ではとある部屋のセットを見せていただいたんですが、ファッション誌が散らかっていたり、服は畳まずぐちゃぐちゃだったりして、漫画のとおりこの部屋に住んでいるキャラクターが大雑把な性格だということをセットが物語っていました。キャラクターの性格がセットのそこかしこに現れているんです。細部までこだわりがスゴいので、注目してもらえるとさらに作品を楽しめると思います。

──すでにドラマは漫画とは違うラストになると発表されています。どうなるかはもうご存知ですか?

山崎:ざっくりとはうかがいました。でも脚本を担当してくださった佐藤嗣麻子さんが漫画をすごく愛してくださっているので、愛があるラストになると思います。

──「アンフェア」の脚本をされている方ですよね。

山崎:そうです。佐藤さんカラーが出ているので私も楽しみなんですよ。

特別読み切り『サイレーン』をお楽しみに!

──10月22日に発売される「モーニング」最新号には、里見とイノの出会いを描いたスピンオフが掲載されています。久しぶりに彼らを描いてみていかがでしたか?

山崎:カラの後ろ姿を描きたかったのでうれしいです! 後ろ姿だけで画面を支配する彼女を見て、“キャラが立つ”とはこういうことかとあらためて思わされました。「どんな顔をしてるんだろう? こっちを向かないかな?」とか考えちゃいましたね。里見とイノの日常の話を描くのも楽しかったのです。でもネームはすごく難航しました(笑)。今回はほんわかしたお話でと言われて、さらに初見の方にもわかるように18ページの中で作品の世界観やキャラクターの魅力を盛り込むのがとても難しくって。実は最初暗〜い話を描いたら丸ごとボツになりました。清々しいほどの全ボツでしたね。

──個人的にイノの「今から行こうよ」というセリフがツボでした。すごくイノらしくてかわいかったです。

山崎:わかっていただけました!? そこに反応してもらえたのはうれしいです!

──最後にひと言メッセージをお願いします。

山崎:今回のスピンオフは物語の入口、はじまりのようなお話なので、本編を読んでくれた読者の方だけでなく、ドラマから興味を持ってくださった方も楽しんでもらえるようにがんばりました。ドラマも、たくさんの人が小道具のひとつにまでこだわり抜いてつくっています。ぜひたくさんの人に楽しんでもらいたいですね。

文/松澤夏織

『サイレーン』1巻
『サイレーン』2巻
『サイレーン』3巻
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『サイレーン』5巻
『サイレーン』6巻
『サイレーン』7巻