俣野成敏/マタノ ナルトシ
1993年、シチズン時計㈱入社。30歳の時に早期退職募集の対象になり一念発起。2002年、社内起業、年商14億円企業に育てあげる。2011年にはメーカー本体に帰還、40歳で史上最年少の上級顧問に就任。同年出版した著書『プロフェッショナルサラリーマン』がベストセラーとなる。2012年、独立。複数の事業経営の傍ら、講演、執筆活動を行っている。
島会長、会長就任、おめでとうございます。島さんには引退しないでもらいたいです。『島耕作』シリーズっていうのは「プロフェッショナルサラリーマン」の教科書のようなものですから。僕と島耕作との出会いは、もがきながら仕事をいていたサラリーマン時代、30代の頃でした。僕は30歳の時、リストラの対象になりました。務めていた一部上場企業が、業績不振のために早期退職者を募集したんです。
それ以来僕は、「サラリーマンといえども、これからはプロフェッショナルでなければならない」と思い、それまでの立場ややり方を捨て、行動を全面的に変えました。社内ベンチャー企業を立ち上げ、33歳でグループ約130社の最年少役員に抜擢されましたが、自分としてはかなり遠回りしてしまったなあと思うのです。ですから『プロフェッショナルサラリーマン』シリーズは、いわば20代の自分に宛てて書いた手紙のようなものなんです。過去の自分を救いたくて、文章を書いているんですよ。今となっては会長まで登り詰めた島耕作ですが、彼も苦労しているし、不遇の時代もある。だからこそ、若い人たちにも『島耕作』を読んでほしいと思っています。
かつて「3K」という言葉が流行りました。「キツい、汚い、格好悪い」の頭文字で、誰もやりたがらない仕事のことでした。一方、今の時代に、逆に必要な3Kをあげるとしたら何だと思いますか? 「好奇心、決断力、気楽さ」です。昔は好奇心なんてなくてよかったんですよ、なぜかっていうと目の前に仕事がいっぱいあったから。経済は上り調子、皆で仕事を分けあっても十分食べられました。逆に好奇心を持っていると仕事が手につかなかったり、「お前目の前のことをちゃんとやれよ」って言われちゃいます。今はそういう時代ではありません、好奇心を持たないと仕事を楽しめません。どうせ働くなら楽しく、いい仕事をしたいですよね。これは島耕作のスタンスと一緒です。
元々宣伝畑にいた島さんですが、部長時代にはワイン畑に繰り出しますし、レコード業界にも出向しています。それぞれの場所で好奇心を持ち続け、最大限楽しんで高いパフォーマンスを発揮していますよね。この姿勢こそ大切なんです。そして、決断力が重要なのは、自らが選んでその場所にいるという「実感」が、働いていく上では必須だからです。サラリーマンは「自分には選ぶ権利なんてない」と思ってしまいがちですが、島耕作は理不尽な異動でも自分で選んだかのような姿勢で臨んでいます。
いつだって前向きに「決断」して、自分がいるべき場所を自分で選んでいるわけです。そして最後に「気楽さ」も重要です。この「気楽さ」がないと運はつかめないと思う。幸運っていうのは最初はつかみに行くんです。そして待たなきゃいけない。幸運をつかむまでには、タイムラグがありますから。もっと待てば花が咲くのに、相手を急かして芽を摘んでしまう人が多いんですよ。島耕作は「気楽さ」を持っている男です。何とかするって思って一生懸命仕事をして、最後は「何とかなるさ」と思っていますよね。この「何とかなる」と楽観的に信じることができれば、精神的に強くなれるんです。「何とかする」だけだと、プレッシャーは大きくなりすぎて、バランスを崩してしまいがちですから。島耕作は「待てる男」でガツガツしていません。その余裕ある姿勢が仕事での成功につながり、女性をも呼び込むんですよね。
島さんは43年間の会社員生活の中で、一貫して人間関係において「貯金」を作っています。誰かのために誠実に尽くすことが、本人の意図しないところで「貯金」になっているんです。巻を1巻、2巻と重ねて読んでいくと、しばらくしてその効果が出ることがある。
たとえば、フィリピン・ハツシバ時代に島さんが懇意にしていた秘書・ローラが、社長編のラストの方で、なんとインドネシアで島さんを助けてくれたりします。30年の時を超えて、恩を売ってた相手が助けてくれるっていうのは、すごいですよね。これは島耕作って人が、私利私欲に走らずに、常に誠意ある対応をしているからなんです。誠意というのは「誰にでもフェアであること」です。
島は自分に対して、執拗に嫌がらせを続けた今野のような上司に対しても、常にフェアな態度で接します。今野が退職した日には、オープンカーで出迎えるんですからね。なかなか出来ることじゃないですよ。出世できない人や、どこかで失脚してしまう人は、いつもその場その場で人間関係を清算して、私利私欲を優先してしまいます。
『プロサラ』って、要は「選択肢を持てる状態になりましょう」ってことなんです。
島耕作だってやめるって言う選択肢があったと思うんです。本に出てこない、島耕作の選択肢があるって考えると面白い。漫画で描かれてるのは弘兼先生の視点だけれども、島耕作という人物を弘兼先生と切り離して考えたら、漫画になってないシーンがいっぱいあると思う。その都度、オプション(選択肢)があったと思う。
彼は何やったってうまくいったんだと思う。これだけやっぱり、人に対して与えられる人なので、どこにいってもモテるし、どこにいっても人脈ができるんだと思う。女性にもてるっていうのと、サラリーマンとして人脈ができるっていうのと、たぶん本質は同じなのかなって思いましたよ。だって二面性がないから、島耕作には裏表がないんですからね。島耕作は自分のスタイルを貫くというか、切り替えができないんですよね。ある意味、不器用。その不器用さが人望を集める理由になっています。43年間の「貯金」が会長編でどのように花開くか楽しみにしています。
ながのともこ/キャスター。1962年12月24日、アメリカニュージャージー州で生まれる。上智大学外国語学部英語学科卒業後、フジテレビジョンアナウンス部に入社。90年結婚を機に退社しフリーに。00年4月テレビ朝日『ザ・スクープ』のキャスターをつとめる。現在は『報道ステーション』特別リポーター、『報道ステーションSUNDAY』でメインキャスターとして出演中。著書に『ニュースの現場から』(NTT出版)、『踏みにじられた未来 御殿場事件、親と子の10年闘争』(幻冬舎)がある。
島耕作より一世代下にはなりますが、就職以来の時代背景がほとんど重なることもあって、一緒に年を重ねてきた同志のような思いを抱いて愛読しています。
思い出深いエピソードを挙げたらキリがないのですが、やはり専務時代に五洋電機のTOBを巡って起きた、ソムサンとの熾烈な攻防戦は本当に興奮しました。会社のため、国益のため、専務・島耕作が下す大胆な決断と行動力は企業戦士・島耕作の最大の見せ場のひとつですよね。
さらには、その約一年後に、パナソニックが三洋電機を買収というニュースが現実のものとなり、島耕作ファンにはたまらない展開も体験。
報道センターで最初にこのニュースの速報を聞いたとき、思わず「わーお、初芝五洋」と声をあげてしまいました。弘兼さんの洞察力、取材力、分析力にはいつも感嘆しています。報道の仕事に参考になるヒントや情報の宝庫です。
‘80年代、’90年代、そして現在に至るまでの激動の時代にあって、信念を曲げずキャリアを積み重ね、サラリーマンとして輝き続ける一方で、女性関係に関しては、めっぽう受け身で低体温なあの感じが、またギャップ萌えポイントだったりします。
女からしてみると、島耕作に恋したら、つかみどころがなくてホントに苦労するだろうなと。春山香織が勝浦大喜を選ぶ気持ちはわかるなあと。
そんな島耕作の最強パートナーであり続けた大町久美子との結婚は、もちろん一ファンとして嬉しかったけど、一方で二人もついにこういう年齢に落ち着いてきたかという寂寥感に包まれたりもしています(笑)。
長く続いたデフレ不況から日本経済が抜け出して再生することができるか、まさに日本が生き残りをかける変革の時代、島会長がどんなリーダーとして牽引していくのか。これからもすごく楽しみです。個人的には恋も仕事もあんまり落ち着かないでほしいなあ。
ふるいちのりとし/東大大学院博士課程在籍。慶大SFC研究所上席所員(訪問)。有限会社ゼント執行役。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社刊)で注目される。
『僕たちの前途』(講談社刊)の巻末企画では、島耕作(テコット社長)と対談を果たした。
去年、憧れの島耕作社長と対談することができた。ちょうど島さんが結婚したばかりの頃だ。もっと嬉しそうにしているのかと思ったら、いつもメディアで描かれているとおり、ひょうひょうとした感じだった。
島さんは、ただの社長ではない。偶然を引き寄せる力、出会ったばかりの女性を惚れさせる力、自らは手を下さずに人を動かしてしまう人心掌握術など、数々の特殊な才能持つスーパーマンだ。そんな島さんは、凡人では想像もつかない華麗なサラリーマン人生を歩んできた。
大富豪の娘と運命的な恋をしたり、上海マフィアと対決したり、領土問題で揺れる日本の国難に対峙したり、その人生はまさに波瀾万丈といっていい。
だけど、島さんがすごいのは、それらをすべて当たり前のようにこなしていくところだ。普通だったらあり得ないような局面を迎えても、驚くほどの平常心。島さんは、何人もの友人や知人との死、愛する人との別離を経験してきたと聞く。だけど、ほとんど過去を振り返らない。いつだって前向きだ。
そんな熱くなりすぎない楽観的な生き方は、多くのサラリーマンたちの憧れの的となった。島耕作という物語は、サラリーマン人生話を装った一流の冒険譚だ。背広の下に熱い欲望や妄想や希望を隠し持った企業戦士たちにとって、島さんはまさに理想の人なのだ。
さて、島さんの人生は、日本経済そのものとも重なる。高度成長期に青春時代を迎え、安定成長期に着実にキャリアを重ね、バブル期には世界を飛び回り、その後はアジアへ力点を移してきた。島さんの人生を漫画化した『島耕作』シリーズは、戦後日本経済・経営史を理解する上で必須の教科書といってもいいだろう。
いま、テコットは創業以来の危機を迎えていると聞く。経営不振の責任をとって島さんも社長をしりぞく。
これから島さんはどんな決断をして、どんな人生を歩んでいくのだろうか。楽しみでならない。なぜならば、それは日本経済の明日を占うものになるからだ。
テコット、倒産しちゃうのかな……。ちょっと心配。
能町みね子/北海道生まれの茨城県育ち。漫画家という肩書きで文章やイラストの仕事のほうが多めな活動をしている。漫画家・久保ミツロウ氏とニッポン放送「オールナイトニッポン0」火曜日(深夜3時~)に出演中。著書に『逃北~つかれたときは北へ逃げます』(文藝春秋)『ひとりごはんの背中』(講談社)『くすぶれ!モテない系』(文春文庫)等。
私が島耕作シリーズを初めて読んだのは大学生のときです。『課長』を全巻読んで、その息もつかせぬ展開とか(樫村とか)に夢中になるとともに、私はこんな企業世界でやっていくのは嫌だという思いが強くなり、大会社の社員には絶対になるまいという決意を固めるきっかけにもなった忘れられない作品です。結果として私が今こういう仕事に就いているのは『課長 島耕作』の影響も確実にあります。ありがとうございます。
で、今回久しぶりに『課長』を読み返すと、大町久美子の初登場シーンが感慨深い。だって、島耕作はこの人と20年以上後に結婚するわけですからね。当時はさすがに弘兼先生もそこまでの展開を考えていなかったでしょうし。大町久美子の初登場は課長編6巻で当時20歳、47話目の6ページ1コマ目。意外と遅く、アイリーンや典子ママや樫村よりも後です。さほどインパクトのある登場のしかたではないですが、明らかに今後何かしらありそうな美人という印象。「とりあえずはコピーワープロお茶汲み等の雑用をやってもらうことになっている」という言葉が時代を感じさせる。
そして7ページ後に2回目の登場シーンがあるんですが、ここは中川社員がパニクって散らかした書類を片づけるシーンです。2回目の登場は書類を拾う背中、3回目は斜めから顔のみ、そして4回目……4回目は床の書類を拾う姿を真っ正面から捉えたショットですが、お手本のようなパンチラです!
注目すべきなのはこのパンチラが読者以外の誰にも向けられてないということです。映画で言えばカメラだけに向かっている状態で、島耕作も含め、おそらく社内の誰も久美子のパンツを拝んではいません! 登場わずか4回目にして読者だけにパンチラを見せつける。なんたる挑発、なんたるサービス!
これに気づいた私は、ストーリー上で島耕作にとって重要なほかの女性についてもパンチラや下着姿をチェックしてみましたが、アイリーンは10回目の登場で、パメラは34回目で、典子ママは38回目で、鈴鴨かつ子は52回目でいきなり裸を見せていて、誰一人としてパンチラや下着を経由していない。これらはすべて島耕作とのセックスシーンでした。島耕作のための裸ばかりで、純粋に読者のためだけのサービスではない!
唯一久美子を上回ったのは、1回目の登場がプールから上がるシーン(全裸)だった大町愛子。久美子の母。さすがはのちのち島耕作と結婚する久美子と、その母です。大町母子だけは、間違いなく読者のためだけにサービスしている!
そんなわけで、島社長、久美子さん、遅くなりましたがご結婚おめでとうございます。
山田ゴメス/1962年6月10日生まれ。大阪府出身。ファッションから下ネタ、美術評論など幅広い分野で活躍するマルチライター。西紋啓詞名義でイラストレーターとしても活躍。著書に『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)などがある。趣味は草野球。テニスもうまい。
あらためて島耕作シリーズを読み返してみると、熱量やスピード感の面で『課長編』はたしかに断トツの完成度で、何度読んでものめり込んでしまうが、バブルがはじけて主人公を含む初芝全体がかならずしも順風満帆とは言いがたい『部長編』が、個人的には一番のお気に入りだったり、じつはする。
「人の不幸は蜜の味」とはよく言うが、とにかく我らがヒーロー・島耕作があっちこっちの部署に左遷されてしまうのがいい。さらに、それに伴った社内の派閥争いや小競り合いに『部長編』では多くのページを割いていただいているのが最高だ。
私のようなサラリーマン経験がほとんどない人間にとって、取締役時代の海外進出だとかの話は正直、あまりピンと来ないのである。でも、会社で日々起こるもめ事ならば大丈夫。かろうじてイメージもできるというものだ。そして、数ある生々しいトラブルのなかでも、ひときわキーポイントとして異彩を放っているのが今野輝常だと私は思う。
「こんの・てるつね」、ではなく「こんの・きつね」と読む。『課長編』で、入社式での各部署説明会のとき、「“キツネ”と呼んでください」と渾身の持ちネタを放ったが見事にスベってしまい、反して流暢に自分の部署の説明をこなし新入社員から大ウケだった島耕作に嫉妬心を抱く男。
やはり『課長編』で、銀座のクラブで中沢部長(当時)が愛人との間にできた息子からプレゼントされたネクタイを、ハサミでちょん切って部長に殴られ、ずっと閉店間ぎわまで土下座し続けていた男。やはり『課長編』で、島耕作の部下たちから社内食堂でディスポーザー代わりに残飯をぶっかけられた男。敬愛する上司・福田の愛人を嫁として娶らされていた男……。そんな今野が『部長編』では、島耕作が左遷された先の福岡ハツシバ販売センターにおいて、“社長”として立ちはだかる。次から次へと嫌がらせにも近い無理難題を島耕作に押しつける今野。当然の事ながら、島耕作も今野という人物をこころよくは思っていない。
だがこのふたり、最後の最後には和解しちゃうのである。きっかけとなった島耕作の決めゼリフは、「あなたは人に好かれたことがありますか?」
そこからのやりとりは文字数の関係でやむを得ず割愛させていただくが、結局のところ改心した今野は、定年までの残りの日々だけでも“周囲に好かれる人”を目指し、職場の部屋ごとに花をそっと飾るのだ。しかも、島耕作の取締役昇進のニュースを聞いたとき、今野は思わずうれし涙まで流してしまう。まさに涙なしでは読み切れない名場面中の名場面ではないか!
私も昨年50歳をむかえ、これまでそれなりにいろんな経験を味わってきた。さまざまないきさつや過ちや誤解から、絶縁状態になってしまった関係も少なくない。そういう今でも夢にまで出てきてしまう、仲たがいした人たちと、島耕作と今野のように和解が成立するということは、私にとって社長になるのと同じくらいのサクセスストーリーなのだ。
だって普通に考えれば、大人になって喧嘩別れしちゃった人とヨリを戻せるケースなんて滅多にないじゃないですか。とりあえず私に関して言わせてもらうと、悲しいかな、まったくおぼえがないのである。
あべあきえ/1962年6月10日生まれ、東京都出身。首相・安倍晋三氏の妻。1987年、安倍晋太郎元外相(故人)の秘書を務めていた安倍晋三氏と職場の上司の紹介をきっかけに結婚。現在は、首相夫人として忙しい日々を送る。
世の中には理不尽であっても「社会とはこんなものだ」と諦めてその暮らしに慣れてしまう人も多い中、島耕作は正しいと思う事はどんな偉い人に対しても、譲らない姿勢を持ち続けている。そんな所が主人と良く似ていると思いました。
主人は国会議員になる前から拉致問題について取り組んでいました。当時、一部のマスコミは「拉致の事実はない」と否定していましたが、それでも「批判される事になっても正しいことをやり続けたい」とその取り組みをやめようとはしませんでした。
『ヤング 島耕作』の中のエピソードに、下取りで持って帰った電化製品を川に投棄しようとする販売店のチーフを島が止めようとする場面があるのですが、勤務評価を最低ランクにするぞと脅されても、「反社会的行為に与するよりましです」と、島は意見を曲げない(「ヤング編」STEP1 ※1)。その一方で理不尽な一面がある事もそれが社会だと受け止めながら、上手く人間関係を作っている。さまざまな困難に立ち向かいながらも清々しく生きる島耕作の姿は、一年生議員時代の主人を思い出します。
島は、人によって接し方が変わったりしないし、正しいことをやっているのに正義感ぶっていない。そして人をむやみに傷つけないようにしようとする優しさと懐の深さにも好感が持てます。
『ヤング 島耕作』は’70年代、高度成長時代の話ですが、今の人たちにも重なる事が多く、共感が持てるのではないでしょうか(※2)。組織や社会のドロドロした悪慣習にズバッとメスを入れていく島は本当にカッコいい! 現実にいたら確実に惚れてしまうと思います。これからの時代は島のように正しいと思ったら、臆せず正しいと言える時代になって欲しいですね。
さだくにお/山口県商工労働部観光振興課長、現在54歳。
※山口県は、昨年末の岩国錦帯橋空港開港を機に、島耕作を「社長」に起用した観光プロモーション活動を展開中であり、佐田氏はその企画、活動推進の責任者。
私は最近すこぶる機嫌がいい。実は、山口県は、昨年末から、県の観光部門を民営化して、(株)おいでませ山口県というバーチャルな会社をつくり、「島耕作」に社長に就任してもらうというストーリー仕立ての観光キャンペーンを展開している。つまりは、弘兼先生が「暴挙」とおっしゃったこの企画を通じ、私は、どういう形であれ、遂に長年ファンであった「島耕作」の部下になれたわけであり、今は毎日、目の前にある「島耕作」社長の等身大パネルに挨拶をし、机に着いているわけである。そしてもう一つ、社長がついに「永遠の恋人 大町久美子」と結婚した(※1)。社長の女性遍歴には今更言及するつもりはないが、社長は本当に「芯の強い」美しい女性にもてる。当然彼の人生、出世にもいい影響を及ぼすわけで、その代表が大町久美子なのである。変わらぬその美貌と雰囲気には今も憧れるが、今までの二人の関係を思い起こすと、新妻としてしっかりと家庭を守っている姿には感動すら覚える(それにしてもうらやましい)。
さて、私も遅ればせながら課長になり、34才の時の「島耕作」と同じ立場に立つことになった。「島耕作」シリーズは貪るように読んできたが、仕事柄、改めて「島耕作」の魅力に気づくことも多く、少し頭を整理してみた。持ち前の行動力に強い信念、驚くばかりの運のよさ(ほとんど奇跡!)、さらに女性たちの応援も加わって、どんな難局も乗り切ってしまう見事なまでの「痛快出世物語」なのだが、弘兼先生の卓越したストーリー展開、時事経済漫画とも呼べるほどの圧倒的な情報量、リアリティーでぐいぐいと引き込まれてしまう。そしてファンを惹きつけてやまないのが、魅力的な脇役陣とその人間味あふれる人物像である。福岡HSC時代の今野社長は思い切り憎々しいし(「部長編」STEP125)、中沢社長の「カカカカ」は実に頼もしい。島課長の告発でクビになった某印刷会社の部長が、クリスマスの夜に小さな一人娘の手を引いて、売れ残りのケーキを買っている後ろ姿には、本当に泣かされてしまった(「課長編」STEP7)。退職前の今野氏が島耕作の取締役昇任に涙する姿(「部長編」STEP158)、尊敬する中沢社長、勝木会長の最期(「部長編」STEP90、「専務編」STEP52)など、背筋が痺れるシーンには本当に事欠かない。
島耕作自身の魅力でいうと、私が一番傾倒しているのは、的確な洞察力、判断力(外したことがない)はもちろんであるが、今野氏をはじめ数多の敵役、ライバルを決して恨まず、逆に惹きこんでしまうその人間性と、人の力量を推し量るその眼力である。
まさに理想の上司像であり、多くの日本のサラリーマンが実社会でのマネジメントの参考にしてきたことを考えると、日本経済にも少なからぬ影響を及ぼしてきたのでないかと思えるほどである。
とまあ話が少し大げさになってきたが、それだけ「島耕作」の魅力、影響力は大きいということである。次は会長という噂もあるが、コアなファンを自認する私としては、相談役でも何でもとにかく息長くシリーズが続くことを切に願っている。できれば故郷、岩国にももう少し頻繁に帰ってきてほしい。
最後に……、私の今のもう一つの肩書きは、島社長の課長時代と同じ「宣伝課長」である。女性にもてるところは全く真似のしようがないが、「島耕作だったら」と想像しながら仕事をするのは個人の自由だ。
「よし、そのセンでいこう。カカカ(実は島耕作と中沢社長風)。」と明るくのたまいながら、「うちの」島社長の顔に泥を塗らないよう、精進している毎日である。「おいでませ山口へ」を合い言葉に!!
なかがわしょうこ/1985年5月5日生まれ、東京都出身。人形のような愛くるしいルックスとは裏腹の、漫画・特撮・レトロゲームなどサブカルチャーに精通した独特のキャラクターが人気。歌、グラビア、声優、司会などマルチな才能をいかして多方面で活躍中。
弘兼先生の作品は、読んでると自分の人生の経験値が上がる気がします。どの作品の登場人物も多才でそれぞれちゃんと意志を持って動いていて、読むと私も賢くなったような気がするんです。小学生の頃から『島耕作』も読んでいて、当時は大人って恐ろしいって思ったりもしたけれど、社長編に至る今までまったく飽きずに発売日に新刊を買い続けています。昔の作品で登場した人物がもう一度出てきてくれるのも『島耕作』シリーズの楽しみで、大町久美子とついに結婚してくれたことが最近一番嬉しかったことです。
『島耕作』のほかにも、『加治隆介の議』(※1)が墓場まで持っていきたいくらい大好きな漫画で、社長編に加治さんの息子(らしき人)が登場したのも嬉しかったです。今が舞台の『加治隆介の議』の続編や、加治さんが総理大臣になった話も読んでみたいし、島さんがいつか政治の世界にも行ってくれたらいいのにとも思っています。
今改めて、電子書籍で課長、部長、取締役編の『島耕作』を読んでいますが、まったく色あせず古くなく、それぞれ当時の文化や価値観、空気をリアルに感じる事ができます。ヤング編、係長編では80年代の世界を知る事ができるので、毎回すごく楽しみにしています。私にとって『島耕作』は素晴らしい教科書であり人間ドラマの勉強の場です。島さんのような素敵な方の下で働いてみたいという妄想をずっとしています。なので、社長編で「神奈川恵子」(※2)が登場したときは、本当に親子で手を取り合って転がって喜びました。
いつも想像もしない展開を見せてくれるのも、『島耕作』の魅力です。ワイン部署で働いたり、その後のレコード会社への出向も驚きました。今レコード会社編を読むと、子供の頃に読んだのとはまた違った味わいです。実際に自分がレコード会社で活動させて頂いている身分としては、ぜひ島さんに売り出してもらいたいなって思いました(笑)。
弘兼先生はたったひとりの人生のはずなのに、あらゆる人生・職種を描けるのが素晴らしいです。本当に弘兼先生には不老不死でいてもらいたいし、ずっとずっと色んな種類の漫画を描いてほしいです。年をとるのは怖いと思ったりもしますが、島さんや大町久美子を見ていると、大人のかっこよさや大人の恋愛の難しさ、色んなことが勉強になるので、大人になっていくのが楽しみでもあります。
これからも人生には『島耕作』が欠かせません!