フラストレーションを発散させてください!
──8月に14巻が発売されてから4ヶ月振りのコミックスです。15巻の見所をお教えいただけますか。
13巻から14巻では政治にまつわる話が続きました。1回読んだだけでは理解しにくい複雑な内容だったと思うんです。根気強く読んでくださった読者の方にとって、15巻はフラストレーションを発散してもらえる巻になっていると思います。
──15巻で特にこだわった点はありますか?
15巻は数ある謎の中でも、特に大きなものが明かされる巻です。連載前から決まっていた設定なので、やっと出せたという感じですね。1年くらい前に諫山さんとこの謎についてガッツリ打合せをしたのを覚えています。長く連載をしていると話が複雑になります。細部まで見たときに矛盾がないかなど 、謎の“答え”に肉付けする作業をしました。設定をまとめ終わった紙を、明け方に二人で写メして「忘れないようにしないとね〜」何てやりとりをしましたね(笑)
諫山先生ってこんな人!
──諫山先生を担当されて、もうすぐ丸9年が経つとうかがいました。川窪さんから見て、変化を感じる点はありますか?
漫画をつくる上ではあまりないですね。というのも、諫山さんが全然変わらないんですよ。打ち合わせのために編集部に来てくれますし、夜遅くまで働けば「お疲れさまでした」って深々と頭を下げて帰っていきます。あと、諫山さんは完全手描き原稿なんですけど、いまだにご自分で原稿を届けてくれます。たくさんの人に読んでもらえるようになり、ほめられるのはシンプルにうれしいと言っていました。一方で、称賛の声は肥やしにはならないと感じていて、あえてネットの悪い意見を見たりするそうです。僕なんかは「見ない方がいいんじゃないかな〜」と思うんですけどね(苦笑) 欠点を指摘されたら向上心につながるタイプなんだと思います。
──リテイクを出すことはありますか?
ありますよ。以前は全ボツみたいなのもありましたけど、ここ1年くらいは1回直すくらいです。内容についても、今の段階で僕がどうこういうことはありません。でも、肌感覚で「面白い」と感じたものはちゃんと伝えるようにしています。ここ最近は難しい話が多かったので、わかりやすさにはとても気をつかいました。今まで読んできてくれた読者の方を振り落とすものであってはならないので。具体的には言葉選びや文字数の指摘をする感じですね。
──打ち合わせではどのようなお話をされるんですか?
漫画以外の話が多いですね。約2時間の打ち合わせのうち、半分くらいはアニメとか監修物の話をしています。あと諫山さんは原稿が終わるとよく映画館に行くそうなので、映画の話をします。この前は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』が面白かったと言っていました。結構アクションが好きみたいで。でも『ライフ・オブ・パイ』とか『アクト・オブ・キリング』みたいなものも見るというので、興味の幅が広いなと感じました。かなりの映画好きなので、漫画を描く時も映画から刺激を受けることが多いようです。
──川窪さんご自身は漫画から影響を受けることはありますか?
今はほとんどないですね。でも漫画は大好きなのでかなり読みますよ(笑) 最近個人的に好きなのは『キングダム』とか『僕だけがいない街』とか…あと『亜人』がお気に入りです!
大ヒット後に起こった“変化”と“ひろがり”を経て──
──コミックスの累計発行部数が4000万部を突破し、連載当初とくらべて川窪さんご自身のことで変わったことはありましたか?
社内的に生きやすくなりました(笑) 色んな人に助けてもらえるのでとてもありがたいですね。この作品のおかげで漫画を「つくる」「売る」以外のお仕事をやらせてもらったと感じています。リアル脱出ゲームもプロジェクションマッピングも、実は僕がやりたかったことばかりなんです。上野の森美術館で開催されている「進撃の巨人展」もそうです。原作を読んだことない人に、美術館のイベントとして『進撃の巨人』を楽しんで欲しくて。諫山さんこだわりの「巨人の気持ち悪さ」は必見です。
──イベント以外にも、「ARIA」で連載されていたスピンオフ漫画『悔いなき選択』も話題を呼びましたよね。15巻の特装版には同作のアニメDVDが同梱されるとききました。
これ、クオリティすごいですよ! アニメと同じスタッフが手がけてくださったんですが、びっくりするくらいよく動きます。こんなに力入れてつくって大丈夫なのって心配になったくらいです(笑)
──さらに実写とアニメ、2つの『進撃の巨人』の映画が進行しています。監修として諫山先生はどの程度かかわっていらっしゃいますか?
実写版の脚本にはかなり、ですね。映画の製作会社さんに何度かお邪魔したこともありますし、メールを含めたらもう何回やりとりしたかわからないくらいです。映画スタッフの方々と一緒につくりあげた脚本であると思います。この作品のすごさの1つは、たくさんの人が「『進撃の巨人』を使って楽しいことをしよう」と色々なものを提案してくれることだと思うんです。昔の漫画は“漫画”でしかなかったんですね。展開先もアニメやドラマ、ゲームが中心でした。この作品が今までとは違うひろがり方をしていく中で、思ったことがあるんです。ファンの方、アニメや映画制作の方、コラボ先の企業の方、そして諫山さんや僕、皆が『進撃の巨人』をつかってそれぞれの夢を叶えたらいいんじゃないかなって。
15巻の注目ポイントはココ!
──最後に、読者の方へひと言お願いします!
15巻は「主人公ようやくきた!」巻です(笑) 実は以前諫山さんが「最近エレン出番がなかったので15〜16巻では増やしてあげたい」と言っていて。ちょっと苦労したという表紙は、エレンの表情がとても印象的です。物語だけでなくエレンにとっても重要な巻なので、ぜひ楽しんで読んでほしいですね。
文:松澤夏織
©諫山創 /講談社